東京バプテスト教会のダイナミズム –評・錦織 寛

東京バプテスト教会のダイナミズム 

日本唯一のメガ・インターナショナル・チャーチが成長し続ける理由

目的をしっかり定めた教会の姿を浮彫に! 渡辺 聡[著]
(新書判・一六四頁・定価一〇五〇円〔税込〕・ヨベル)

評者・錦織 寛(にしこおり・ひろし=日本ホーリネス教団東京中央教会牧師)

本著は南部バプテスト神学校で博士号を取得し、青山学院大学でも宗教社会学の専門家として学生と向き合い、東京 バプテスト教会のミニストリー担当牧師である著者が社会学的な視点も大切にしながら教会のあり方を検証したフィー ルドスタディーである。 東京バプテスト教会は、一九五七年にダブ・ジャクソン宣教師夫妻の働きによって始められた英語礼拝を基本とする 教会である。三百人ほどの会衆だった教会が、一九九九年、デニス・フォルズ牧師着任以来、急激な成長を遂げ、現在 では五回の礼拝に平均一三百人が集っているという。確かに英語礼拝ということで、世界各地から日本に来ている外国 人たちが、ということもあるが、礼拝メッセージは日本語訳がパワーポイントで映し出されるため、日本人の会衆も多いという。

著者は二〇〇三年に米国留学から帰国してすぐに東京バプテスト教会に関わるようになったというから、教会が急激 に拡大していく時期を共に歩んできたことになる。このようなレポートを読むときに二つの極端な態度がある。

一つは「あの教会は条件がそろっていたから、成長するのは当然だ」といううがった態度。そして、自分の仕える教 会がなかなか人が集まらず、救われる者が少ないという現実を正当化する。確かに渋谷という立地の良さ、献身的な外 国人キリスト者たちの存在……など、好条件はあるかもしれない。けれども、主がそこに働いておられるのは、人間的・社会学的に条件が整っていたからというだけのことではない。社会学の対象にはなり得ない、そこに働いておられ る「聖霊」の姿を、著者は牧師たちの証しや、教会員たちの生の証しをもって明らかにしていく。この本を読んでいると、自分の教会でも何かが起こりそうな気がしていくる。昔も今も、同じ主が生きて働いておられるのだということを 再確認させられて心が燃えてくる。私たちは自分の教会の置かれている状況のマイナス面だけに目をとらわれて、言い訳をするのはやめなければならないだろう。

もう一つの極端は、「そもそもそんなに急激な成長をするのは不自然であって、あまり堅実なあり方とは言えない」 と、いわゆる、数的な成長を否定して、礼拝出席者が増えることもなく、かえって減少していく自分の教会の現実を正 当化していくあり方である。

『堅実なあり方』が何かというときに、本当にメガチャーチは健全で堅実な信仰が育っていかないかというと、そうではないだろう。逆に小さな教会で、時にあるべき姿の信仰がぼやけてしまっているという現実もある。確かに人数がどうこうというつもりはない。一人が救われるときに天が震えるような大きな喜びがあるのだ。もちろん、焦ってはいけないし、強迫観念に駆り立てるようなこともしてはならないだろう。けれども、もっと多くの人々に福音を伝えなければならない。もっと多くの人の救いを願う者たちでありたい。

東京バプテスト教会はデニス牧師になってからパーパス・ドリブン・チャーチ(Purpose Driven Church)の手法を取り入れているという。南カリフォルニアにある、サドルバック教会のやり方だ。この方式を採用すれば教会は成長するというそういうことではないだろう。

しかし、少なくとも、この教会の説教で語られ、実践するように励まされているのは、非常に実践的であり、生活に根ざした具体的な適用を伴った信仰であり、魂を追い求める非常に伝道的な姿であり、目的をしっかり定めた教会の姿である。 著者が今日の東京バプテスト教会の成長を現在の牧師の貢献としてとらえるのではなく、創立牧師の信仰の姿勢の中にあったものが花開いているとみてい る点もとても正当である。

ただ、それらのことを心にとめつつ、なお宗教社会学者の著者には、東京バプテスト教会の抱えている課題についても議論していただきたい。また、ぜひ地方で高齢化が進んでいく中で戦っている教会に軸足を置いて、それらの教会 の牧師・役員・信徒たちにどのように慰めと希望を与えていくかという点から も、発言をしていってほしいと願っている。