主に用いられる体験に基づいたあかし文章を目指そう!

池田勇人著:あかし文章道への招待
(新書判・二五六頁定価一〇五〇円〔税込〕・ヨベル)

 

 私たちは、テレパシーは使えません。私の心を、あなたの心に直接伝えることはできないのです。だから、言葉を使います。言葉は「ことのは」。内なる思いが外に出たものであり、ギリシャ語ロゴスと同じように本質をもあらわすものだと、本書『あかし文章道への招待』を読み、初めて知りました。

 みなさんにも、様々なあかしがあることでしょう。ドラマチックな内容ではなくても、あなたの思いに共感する人がいます。あなたでなければ語れない、かけがえのないなあかしがあるはずです。

 もしも、そのあかしを文章にすることができたら、どんなにすてきなことでしょう。遠くの人にも伝わります。後世の人にも伝わります。けれども、いざ書こうと思うと、言葉が出ません。文章がつながりません。心の中には、こんなにもあふれる思いがあるのに。

 本書は、あかし文書への道を示します。第一部ではまず、「あかしすることの意味」、「書くことの祝福」から始まり、あかし文章の心がけが語られます。本書はたんなるハウツウ本ではないからです。

「あせらず、きばらず、ゆったりと」書くことへのすすめ、そして書きすぎることへの戒め。あかし文章への思いだけが先走りすると、思いは空回りしてしまうでしょう。だから、文章にはテクニックも必要です。第一部の後半では、「簡潔・明快・感銘」な文章を書くための技術を、具体的な例をあげながら説明しています。

 起承転結といった基本を踏まえた上で、文章の音楽性、絵画性、ドラマ性へと文章論は発展していきます。しかも、抽象的説明ではなく、豊富な実例を取り上げながらの説明ですから、わかりやすく理解できることでしょう。

 第2部は、まさに豊富な実例集です。内村鑑三ら歴史的な人物から、牧師でもあり著作家でもある千代崎秀雄、百歳の現役クリスチャン医師日野原重明などによる、多くの優れたあかし文章、さらにごく最近の文章例まで、25の事例が紹介されています。

 満江巌の「簡潔で訴える力を持つ」名文。小畑進の「無駄な言葉をそぎ落とした巧みな説教技術」。山北宜久は「ユーモアセンス抜群の文章家」。著者の適切な文章紹介により、第2部を読むだけで、クリスチャン文章家らの思想に触れ、文章の息づかいを感じることができます。

 第三部では、言葉を生かすために言葉について考えます。「話す」と「語る」はどう違うのか。赤ん坊のことをなぜ「みどりご」というのか。「舟」は一般的に小型のフネを表すのに、ノアが作ったのはなぜか「箱舟」など、興味深い話が続きます。

 「恵み」「幸い」「父」「神」「光」「闇」「愛」など、聖書にしばしば登場する言葉を、日本語の語源から、また聖書から、解説していきます。それは単なる知識に終わらず、言葉を使う上での深い考察につながるでしょう。

 そして、本書の後書きは、著者個人のあかし文章にもなっています。病との戦いの中で経験した手術への恐れ、痛みの苦悩。み言葉との出会い、星野富弘の詩から受けた慰めと励まし。「自分にとっての体験が宝」と語る著者のあかし実践です。

 あなたのあかしも、誰かが待っています。あなたの体験を通してでしか福音が伝わらない人がいます。文章は難しいと感じる方もいらっしゃるでしょう。けれど、筆者は祈りを込めて本書を執筆しています。「ロゴス(ことば)なるキリストが、私たち一人一人にふさわしい言葉を使うものへと成長させてくださいますように」と。

 本書で引用されているように、私たちも「自分にしか書けないことを誰にでもわかる言葉で」(井上ひさし)。主に用いられるあかし文章を目指しましょう。あなたも、あかし文章道に招待されているのですから。

(うすい・まふみ=新潟青陵大学教授)